黒田征太郎さん、8年ぶりに「川島しょう店」を訪ねる。
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古い長屋の一角にある小さな居酒屋なのに、〝神戸一予約が取れない店〟として有名な「川島しょう店」。店内の壁には、イラストレーター黒田征太郎さんが描いた絵があちこちに。実は黒田さんと川島しょう店は、阪神・淡路大震災直後から家族ぐるみの長い付き合いだ。あまから手帖7月号では、九州から8年ぶりに訪れた黒田さんに、川島さんへの想いを語っていただいた。
川島しょう店にはイノチがある
今回の話をいただいた時、ウワッ、行きたいっ。と。ナツカシイと同時にイロイロアツタナという気持ちがこみあげました。僕にとって大切な場です。84歳を生きている僕にとってふりかえることダイジです。
多忙の黒田さん、電話しながらサラサラと花を描く
グルメって呼ばれる人たちがいるでしょう。僕あんまり分かってなくて。楽しかったらウマかったらそれでええやんと。川島さんの料理は全部おいしい。好きな人が作ってくれる料理が一番おいしい。生きるために食べるの、僕は好きです。食べなきゃ死ぬわけです。イノチ。川島しょう店にはそれがある。
震災でも変わらず巣を作る、アリは強いなと思った
僕は戦争とか爆撃とかいろんなことに遭ってきてるんですが、地震だけは体験がない。震災の時はニューヨークにいました。アメリカ人があまりにも日本人のことを心配するから、これは日本に帰ったらとんでもないことになってるはずだと。僕も西宮の国民学校を出てるから神戸は好きな街です。で、帰ってきたんです。お役に立ちたいなんて考えてなかった、ただ神戸が見たいと。
川島しょう店への想いを綴っていただいた
成田に着いても何もない。伊丹でも同じようなもん。被災者を励まそうなんてチラシ1枚もない。で、西宮北口まで来たらブルーシートがいっぱいあって、そこからずんずん歩いたんです。もう本当に大変な人たちの中で、アリがね、せっせと巣を作って働いてた。うわ、アリは強いなあと思ったのね。で、その様子を描いてたら叱られたの。お前、こんな時に何してんねんって。それはそうやと思った。
焼け跡の中で、川島さんと出会った
自分は絵を描いて飯を食えているなんてラッキーと思っています。ですから、できることがあったら何でもやりますという気持ちで。商店街の仮設店舗に絵を描いたり、ビラを作ったりやってるうちに、知り合った人から、「川島さんとこの店行った?何か手伝えることあるか分らんよ」と。そういうノリで、出会いははっきり覚えてないですけどね。
まだ川島酒店跡にテントでも小屋でもない妙な場所で。横の空き地でライブペインティングなんかやらせてもらった後にはいつもご飯食べさせてもらって。気が合ったんでしょうね。いろんな仲間を連れて集まるようになって。
本誌の挿絵に使用。どの絵も優しい色ながら、力強い
僕は趣味がないんですよ。ゴルフなんかもしませんし。酒場に行くのが趣味。銘柄も気にしない。生ビールがあったら飲んで、食うものがあったらそれをかき込んで、終わったらイモ焼酎ロックで。昨日も朝4時まで飲んで今日は新幹線で寝て来ました。
いつでもここに来たらいいんですけど、やっぱりちょっと照れ臭かったりする。今日は川島さんに花の絵を描いて渡して帰ろうと思っているだけです。
これらは、本誌非公開。「誰かに配って下さい」と川島さんに贈られた
24年前の開店した時に買ったカランダッシュのクレヨンがまだ保管してあった。来た時はこれで壁に絵を描いてました。看板の代わりになってる手のひらの絵は、震災で焼けた中に、夜になるとここだけ光があったので。復興していったらいいなって気持ちを、赤い花が手のひらで包まれている絵で。僕は気持ちが先行して描く方なんです。
手洗いに泳ぐ魚たちに、一匹仲間が増えた
お手洗いの魚の絵は、壁の凸凹が波に見えたから描いたの。今日一匹増やしておきました。よかったです。何も変わってないですね。僕もあんまり変われないタイプの人間だとは思うけど、川島さんも変わってない。これほど良いものってないですよね。次来る時のために、クレヨンはまだ置いておいてください。
川島さん(右から2番目)と、妻の厚子さん、娘のさやかさん。ほか、弟の翔さんの4人で切り盛り
「川島家で昔から食べてきたもの」という店の料理は、素材にも調理にも手抜かりない(撮影:エレファント・タカ)
■店名
『川島しょう店』
■詳細
【住所】兵庫県神戸市長田区腕塚町4-1-23
【電話番号】078-611-4112
黒田征太郎さんのアトリエ&ギャラリー「黒田征太郎kakiba」
http://ku-kakiba.jp/
あまから手帖/2023年7月号
Writer ライター
あまから手帖 編集部
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